タイ王国下水道公社(WMA)との覚書締結に向けて
タイ王国下水道公社(WMA)との覚書締結に向けて
国際戦略室 ▇▇▇▇
令和元年 5 月 13 日(月)から 18 日(土)の日程で、タイ王国に出張し、WMA 等と打合せをしていきました。今回の出張は、JICA 草の根技術協力事業でタイ王国WMA に対する支援を一緒に実施してきた埼玉県チームと共に行動しました。
1.WMA と JS の覚書について
JS の主な目的としては、前回 WMA を訪れた 2 月末から WMA と調整をしてきた WMA
と JS との覚書(Letter of Intent)について詳細を調整することです。
2 月末に、JS から WMA に覚書の案を提示し、WMA 側は JS が示した覚書案に対して検討をするということになっていました。しかし、それに対する回答が得られずに、埼玉県がタイ王国に出張するタイミングを見て、JS も同行し「覚書の検討についてどうなっていますか??」と WMA 側の検討を促し、WMA 側の要望等を得て覚書の締結に向けて前進させ、締結の詳細を調整することを目指していました。
JS 側が示していた原案の内容は、以下のとおりの協力範囲でした。
・下水道事業に関する政策、計画、設計、建設、維持管理、マネジメントに関すること
・下水道事業に関する法律、制度に関すること
・下水道の技術、技術評価、技術基準、技術マニュアルなどに関すること
・下水道事業を実施するための人材育成に関すること
・下水道の普及啓発の推進に関すること
・タイ王国と日本の都市、民間企業の活動を通じた技術協力の推進・支援に関すること
これに対して、WMA 側からは、『上記の項目に加えて「タイ王国の地方公共団体の視察を日本側が受け入れること」を覚書に明記してほしい。』との要望がありました。
というのも、2018 年 11 月 23 日に WMA は天然資源環境省所管から内務省に所管が変わり、タイ王国の地方公共団体全体の下水道を推進する義務が生じたことを背景に、WMA はタイ王国の下水道を推進するために、タイの地方公共団体のトップ(市長等)に日本の進んだ下水道技術を見てもらうことを計画しているとのことでした。
覚書の調印式についても WMA から要望がありました。覚書の調印式は、今年の 8 月~9月の次期に日本で行いたいとのことでした。この時期に、WMA の評議員 13 名が内閣から任命される予定があるため、WMA の評議員のうち何名か(Max.13 名)に日本に同行していただいて、調印式に立ち会ってもらう計画を考えているとのことでした。
2.タイ王国の下水道の現状
その他、WMA の担当者から、タイ王国の下水道の状況等も聞くことができました。
タイ王国には、水を含む大気や騒音などの環境全般に関する法律は施行されているものの、下水道に特化した法律はありません。下水道に関しては WMA が設立された 1995 年以前から、汚染者負担の原則がとられているそうです。そして、下水処理場は、中央政府の予算で建設され、地方公共団体に施設を譲渡するという形がとられています。メンテナンスの義務は、地方公共団体にあり、WMA に委託するか民間に委託するかをしているところが多いそうですが、メンテナンス自体放棄している地方公共団体も見受けられるようです。
現在、タイ王国には 7852 地方公共団体ありますが、下水処理場は 105 箇所あります。105
箇所のうち、バンコク都が 8 箇所を所有しており、もう 1 箇所は問題があり稼働していな
い処理場があります。105 から 9 箇所を除いた 96 箇所が維持管理の対象ですが、このうち
WMA が受託している処理場は 26 箇所です。
WMA は各地方公共団体と MOU(Memorandum of Understanding)を締結しますが、 WMA が維持管理をする際には、MOA(Memorandum of Agreement)を締結する必要があります。MOA は、各地方公共団体ともほぼ同じような内容で締結するそうですが、費用負担については、維持管理 1 年目は全額 WMA 負担、2 年目は WMA と地方公共団とのネゴシエーションによって負担割合と地方公共団体の支払う上限額を決定するそうです。この上限により、WMA は維持管理にかかった費用の負担割合分の全額をもらえないこともあるそうです。
また、WMA は国から予算が配布されているため、監査を受ける義務もあります。監査の指標として、『流入水量/維持管理費用』というのがあり、これは、高ければ高いほど良い指標です。この指標で事業を評価され、評価が下がると次年度の中央政府からの予算がカットされるという仕組みになっているそうです。この指標を良くするためには、流入水量をアップさせるか、維持管理費用を削減するかとなります。流入水量が上がりにくい状況では、維持管理費用を削減するしかありません。
考えてみれば、「修繕を行わない」、あるいは「ブロアを止めたまま」、などという状況は、維持管理費を極限までに抑えた手法でもあり、地方公共団体の考え方によっては、仕方ない状況なのかなという気がします。引き続きの職員の意識の向上と、汚水処理の政策をいかに主流化するかということがポイントになるのではないかと感じました。
3.その他
今回、打合せの他にもフィールドワークも計画していました。そのフィールドワークの当日の朝、遠くから雷の音が聞こえてきたと思ったら、瞬く間に激しいスコール。保存資料の確認などの作業も予定されていたため、とりあえず下水処理場に向かうことにしました。15 分ぐらい車で走ると、全く雨が降った様子がなく道路も乾いていました。まさに局地的豪雨を体感しました。
迫力は伝わりにくいですが、スコールの様子
話は全く変わりますが、WMA職員だけでなく街中では黄色いポロシャツを着た人々を多く見ました。タイ王国では新しい国王(ワチラーロンコーン)の戴冠式が 5
月 5 日に行われたばかりです。国王を表す色は、「黄色」だそうで、タイ王国の国民の多くが国王の戴冠をお祝いしている様子が伺えました。前国王(▇▇▇▇)が亡くなった後、何度かタイ王国に足を運ぶ機会がありましたが。街中に
強制ではないが、黄色のシャツを着ている方が多い
はプミポン前国王の肖像画からワチラーロンコーン国王の肖像画に代わってきており、今回の出張では、プミポン前国王の肖像画を探すほうが難しい状況にまでなってきていました。
4.おわりに
WMA と JS は、覚書を結ぶ調整をしていますが、覚書を結ぶことはスタートに過ぎず、今後、具体的にどのような協力関係を進めていくかが大切です。特に、覚書の
中に入れたいと考えている「タイ王国と日本の都市、民間企業の活動を通じた技術協力の推進・支援に関すること」の項目でJS に何ができるかについて、検討していく必要を感じています。
WMA が今後タイ王国の下水道を推進していくキー組織になることは間違いないと思います。皆様がタイ王国で活動するにあたり、JS に対してご要望やご意見等がございましたら、お気兼ねなくお声がけいただけますと幸いです。
