判決の要旨. 裁判所は、以下のように判示し、Xの請求を一部認容した。 盧 礼金条項の消費者契約性について 消費者契約とは、消費者と事業者との間で締結される契約(消費者契約法2条3項)であり、事業者とは、法人その他の団体及び事業として又は事業のために契約の当事者となる場合における個人をいう(同条2項)。 Xは個人であり、Yは株式会社なので、本件賃貸借契約は消費者契約である。 盪 礼金の性質についてア 広義の賃料 通常、建物賃貸借契約締結時に賃借人が賃貸人に支払う一時金には①礼金、権利金、敷引金(名目上の敷金の内で無条件に賃貸人に支払われ返還されない部分)等と、②敷金、保証金等がある(顕著な事実)。この内、①は返還が予定されない金員で、②は賃借人の債務を担保するもので、賃借人の債務不履行等がなければ返還される預り金である。 礼金は、賃借人にとっては①の他の一時金と同様に、建物を使用収益するために必要とされる経済的負担である。一方、賃貸人は、賃借人から受け取る建物使用収益の対価を毎月の賃料だけではなく礼金等の一時金をも含めた総額をもって算定し、それを建物賃貸借経営の必要経費に充てているのが通常であり、そして、①の一時金は、賃貸人の初年度の所得として扱われている(顕著な事実)。礼金のこうした経済的機能に鑑みると、礼金は実質的には賃借人に建物を使用収益させる対価(広義の賃料)であるといえる。 民法上は建物の使用収益の対価は「賃料」であるとされている(民法601条)が、賃料以外の名目で実質的な建物使用の対価を受領することも許されると解されている。また、賃料は月毎の後払い(民法614条)が原則であるが、前払いも認められており、多くの場合、特約で前払いとされている(顕著な事実) このように、礼金の主たる性質は、広義の賃料の前払であるということができるが、その他にもその程度は希薄ではあるものの賃借権設定の対価や契約締結の謝礼という性質をも有している。 このように礼金は一定の合理性を有する金銭給付であり、礼金特約を締結すること自体が「民法1条2項に反して消費者の利益を一方的に害するもの」であるとはいえないというべきである。 イ 期間対応性 礼金を広義の賃料として扱う考え方に対しては、民法上の本来の賃料と比較すると、中途解約の場合に一部返還がなされないなど賃料としての重要な要素である賃料額と賃貸借期間との対応性(以下、「期間対応性」という)に欠けるので賃料とみなすことはできないという指摘がなされている。しかし、礼金が民法の定める形式的意義の賃料でないことは明らかなのであって、実質的・経済的に見て建物の使用収益の対価として授受されているということにすぎないのであるから、礼金を広義の賃料として扱うのなら期間対応性を持たせるように礼金に関する契約を解釈していけばよいのである。形式的意義の賃料でないから賃料ではないという批判はあたらないというべきである。 礼金に前払賃料としての期間対応性を持たせなければ実質賃料の支払としての合理性がなくなるのであるから、予定した期間が経過する前に退去した場合は、建物未使用期間に対応する前払賃料を返還するべきであるという結論になるのは当然のことである。本件賃貸借契約締結の際の当事者間の合意としては、礼金として支払われた金員は返還を予定していないということであると推認される。しかし、そのような合意は、契約期間経過前退去の場合に前払分賃料相当額が返還されな いとする部分について消費者の利益を一方的に害するものとして一部無効である(消費者契約法10条)というべきである。 Xは、契約期間1年の賃貸借契約で、1か月と8日間しか本件建物を使用せずに退去している。したがって、8日間分を1か月と換算したとしても、前払賃料として礼金12万円から控除できるのは1万円×2か月分=2万円ということになる。そして、礼金の授受については、一次的な性質は実質賃料の前払であるが、副次的には賃借権設定の対価や契約締結の謝礼という趣旨も含まれていること等の事情をも合わせて総合考慮すると、本件の場合、Yが礼金から控除することのできる金額は3万円とするのが相当であり、差額の9万円はXに返還すべきである
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